小学部だより

小学部だより 2025年11月号

小学部だより

〜ガラスの天井を越えて、しなやかに


それゆえ、わたしは弱さ、侮辱、窮乏、迫害、そして行き詰まりの状態にあっても、キリストのために満足しています。なぜなら、わたしは弱いときにこそ強いからです。(コリントの信徒への手紙二 12:10)

この秋、日本で初めての女性首相が誕生しました。長く厚く見えない壁のように立ちはだかってきた「ガラスの天井」が、ようやく一枚割れたように感じられます。世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表するGlobal Gender Gap Reportでは、昨年に引き続き2025年も148カ国中118位と低迷を続ける日本。G7最下位ということですから、女性首相の誕生というニュースは歴史の一歩として、そして女子教育に携わる者として歓迎すべきものだと理解しています。
一方で、今回の新首相が掲げる「ワークライフバランスよりも、まずは仕事の責任を」「働いて、働いて、働いて……」という姿勢には、一抹の懸念を覚えます。一国の舵取りを託された責任の重さ、政治の場に立つ女性の覚悟としては理解できますが、同時に「働きすぎることが美徳」とされてきた日本社会の古い価値観を、再び強化してしまうのではないかという危惧もあります。
思い起こされるのは、かつてニュージーランドの第40代首相を務めたJacinda Ardern(ジャシンダ・アーダーン)氏の姿です。彼女は出産を経て育児と政務を両立し、パンデミックという世界の危機に対しても思いやりと共感をもって国を導きました。厳しい判断を下しながらも、その中に常に「人間らしさ」がありました。アーダーン氏は辞任の際に、「私はもう、この仕事を続けるために十分な力が残っていない」と正直に語りました。弱さを見せることを恥じず、誠実に限界を認めるその姿勢に、多くの人が共感し、励まされました。それは、女性だから特別に優しいということではありません。むしろ、リーダーシップの新しい形を提示したのです。強さとは声の大きさではなく、他者の痛みに共鳴する力であるということ。責任とは休まずに働くことではなく、自らを大切にすることで周囲を守ることだということ。その姿は、まさに私たちがキリスト教教育そして女子教育を通して伝えたいServant Leadershipであり、生き方そのものです。
聖書は「私たちは神さまに造られた大切な一人ひとりである」と教えています。子どもたちには、誰かと競うためではなく、誰かを支えるために自分の力を使う人になってほしいと願っています。ガラスの天井を壊すのは、怒りの拳ではなく、静かな光です。141年前、東洋英和の創立者たちも、かつて社会に女性の学びの場がほとんどなかった時代に、この麻布鳥居坂の地に小さな光を灯しました。その光がいまも私たちの東洋英和女学院を照らし続けています。
日本の女性リーダー誕生というニュースは、確かに新しい時代の幕開けです。しかし本当の変革は、「男性のように頑張る女性」が増えることではなく、「誰もが自分らしく生きられる社会」が実現することではないでしょうか。子どもたちが将来、仕事と家庭、強さと優しさ、信念と共感をともに抱いて歩めるように。これからも、聖書の御言葉という光のもとで、しなやかに生きる力を育てていきたいと願っています。。
それぞれのご家庭でも、そして学校でも、子どもたちが「自分は愛されている」「大切にされている」と感じられるような声かけや関わりを大切にしたいと思います。学力や結果に一喜一憂するのではなく、子どもたちが努力している過程、挑戦しようとする姿そのものを喜び、励まし合えますように。

 

小学部長 𠮷田太郎


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