部長 吉田 太郎
ワイナリーでの葡萄の収穫は、日の出よりもずっと早く、夜中の3時ごろから始まります。このナイトハーヴェストは、夜中の気温の低い状態の葡萄が日中に比べて糖度が高いという性質を利用して行われる収穫方法で、朝日が昇るより先に収穫した葡萄からは、質の良い、美味しいワインが作れるといわれています。このブドウの収穫、日本では11月ごろがシーズンなのですが、山の斜面に植えられた葡萄の木から房を一つひとつ選別し、鋏で切り取る作業は文字通り夜を徹して行われる重労働となります。そんなことに想いを巡らせると、今夜のワインの味わいも少し違ってくるかもしれません。
さて、聖書の中にはぶどう園に関するお話がよく登場します。私たちにはあまり馴染みのない葡萄畑の光景や収穫作業の困難を、イエスの弟子たちやユダヤの民はもっと身近に感じることができたのでしょう。イエスは「わたしはまことのぶどうの木」「わたしの父は農夫である」と教えます。さらに、「わたしにつながっていなさい。」そして「わたしの掟を守りなさい」と続けます。その掟とは、「互いに愛し合いなさい。」ということでした。
質の良いワインを作るため、寒暖差のある山の斜面で毎日、毎日、手入れをし、収穫の際にはわざわざ、最も糖度が高い時間を選んで、一つひとつ手作業で収穫されるワイナリーの葡萄。収穫後は選別し、育ちの悪い葡萄は捨てられてしまいます。だから、日の当たる場所で、木にしっかりと繋がって、大地からの栄養を受けながら豊かに実るよう、「わたしにつながっていなさい。」そして、「互いに愛し合いなさい。」と命じるのです。ここで注意しなければならないのは、神の国では、豊かに実るということは、物質的な豊かさ(ワインの場合は糖度の高い葡萄)ということではなく、すなわち「互いに愛し合うこと」、「隣人への愛に基づく行い」こそが、豊かな実りによる芳醇な葡萄となることを意味しているのです。神さまの似姿に似せて造られ、選ばれた私たちです。「79人の姪」という入学式で語られた言葉を思い出しながら、互いに愛し合う、私たちでありたいと思います。
2024年度、東洋英和女学院は創立140周年という記念の年を迎えます。これまでの歴史と伝統を継承しつつ、小学部の教育活動の一つひとつが、「散神奉仕」の中身を、より豊かにしていくものとなりますよう願っています。今年度も引き続きご協力いただきますよう、どうぞよろしくお願いします。